映画紹介『大河への道』

労働映画
 22年5月公開の映画で主演は中井貴一(企画も兼任)。立川志の輔の創作落語『伊能忠敬物語―大河への道』が原作。立川が伊能忠敬記念館(千葉県香取市佐原)を訪れ忠敬が作成した日本地図を見た感動を落語にしたもの。
 伊能忠敬は九十九里で生まれ、佐原で酒造業や金融業、運送業を営む伊能家の婿養子となり10代目当主になった人物。49歳で息子に家督を譲り、江戸に移り住んで天文学を学び測量の道に。5年後に測量事業を始め、17年間で歩いた距離は地球1周に相当する約4万㌔。忠敬は日本全国を歩いて測量し、「大日本沿海輿地全図」を完成させた。地図は驚異的な精度で作成後百年にわたって使用された。
 映画は、香取市役所の総務課主任の池本が主人公。観光課の会議で発言を求められ、地元の偉人・忠敬さんを主人公にした大河ドラマの誘致はどうかと提案。県知事から指示を受け陣頭指揮を執ることに。しかし実は忠敬が地図完成の3年前に死んでいた事実に直面、これではドラマにならない…。
 ここから映画の場面は忠敬が死んだ1818年に飛ぶ。弟子たちは師の死を偽装し地図作りの続行を図る。莫大な時間と資金を必要とする地図作りは幕府内で批判も強い。偽装が明らかになれば関係者の死罪は免れない。幕府の上役の追及をかわし地図作りが続いていく。
 伊能忠敬は戦前期、教育勅語に基づく道徳教育(修身)の教科書で偉人として讃えられ、卓越した測量・地図作りの科学的業績は軽視され、「精神一到何事か成さざらん」の精神面ばかりが強調された。近年は隠居後に新たな挑戦を始めた中高年の星として再評価される。
ちば合同労組ニュース 第167号 2024年06月1日発行より